シーン24:虚無〜コブとモルの世界〜
第1階層ではバンが後ろ向きに河へと落下中。
シートに座っているメンバーは全員空中に浮き上がろうとしているが、シートベルトがそれをつなぎとめている。
第2階層では、アーサーが眠っているメンバーをホテルのエレベータに詰め込み、自分はエレベーターの箱の上へ出る。
第3階層。
建物の外側では、続々と警備兵がコブたちが居る場所を目指して、上ってきている。
イームスは四方八方から押し寄せる警備兵を一掃するための爆薬を準備する。
心肺停止状態のロバートの前で、息も絶え絶えで座り込むサイトーに、イームスはピストルと手榴弾を手渡す。
「サイトー。 ロバートのことを頼む」イームスが言う。
「観光客も働け、か」瀕死の状態での皮肉に、ニヤリとする二人。
「笑えない」イームスはそう言って、外に出て行く。
一方、虚無へ行ったアリアドネは、波打ち際の海辺にいる。
見ると海辺のすぐ近くまで、崩壊寸前の廃墟のような高層ビルが遠くまでずらりと立ち並んでいる。
向こうからコブが歩いてきている。
合流した二人。
「ロバートはモルの所にいると思う」コブは言う。
「なぜ?」アリアドネが問う。
「俺に来て欲しいからロバートを撃ったんだ」コブが答えた。
周囲の風景を見ながら歩く2人。
「これを全部作ったの?」
アリアドネは周囲を見渡しながら「・・・・・・すごい」とつぶやいた。
「思い出を頼りに、何年もかけて作った」コブは答える。
老いた二人が手をつないでビルの町並みを歩く記憶。
コブは、わき道の向こうに、2人の子供がしゃがんで遊んでいる姿を見つけた。
コブがみると、二人は立ち上がって駆けていった。
「こっちだ」コブはアリアドネを促し、子供が向かった先に歩く。
第1階層では、バンが今なお落下中。
第2階層では、アーサーがエレベータの箱の上で、箱を吊るしている数本のワイヤーを、爆弾で爆破して切断していた。
第3階層では、イームスが集まってきている警備兵と戦いながら、建物の周囲に爆弾をセットしている。
そして虚無。 荒廃したビルの間を歩く、コブとアリアドネ。
「この辺は昔住んでいたあたりだ」コブが言う。
「あれは初めて住んだ家だ。 モルが妊娠して引っ越した」コブが言う。
「全部再現したの?」アリアドネ。
「時間だけはあった。 あれはモルの生家だ」コブが言う。
「あそこにモルは居ない?」アリアドネの問いにコブは首を振った。
コブは目的のビルを見つけて入っていく。 アリアドネもコブについていく
「僕もモルもこういうビルが好きでね」コブはアリアドネに話す。
「ここでなら自分で作れる」コブは言いながら階段を上がる。
第3階層の雪山では、イームスが警備兵を相手に奮戦しながら、キック用の爆弾をセットしている。
第2階層のホテルのエレベーターでは、箱を吊るすケーブルをすべて切断したアーサーが、最後の爆弾をセットしている。
第1階層のバンは、もう少しで着水する、というところまで落下している。
階段を上がった先はエレベータホールだった。
コブとアリアドネはエレベータを呼び出し、入る。
「ロバートは?」アリアドネが聞く
「キックで戻す」コブが言う。
「どうやって?」アリアドネ。
「アドリブだ」コブは言った。
「インセプションについて話がある」コブはアリアドネに言う。
アリアドネはコブを見る。
「アイデアはウイルスのように広がる」コブは話し始めた。
「始めは小さな種だったものも、やがては大きく成長し、根を張ってしまう」
「それは、人に道を示すか、破壊するかのどちらかだ」
コブはアリアドネを見る。 彼女はコブの言葉の意味を考えた。
エレベータが止まり、ドアが開く。
荒廃した部屋のテーブルに、モルが座っていた。
「来てくれたのね」モルが言う
「ここは現実じゃない」アリアドネが言う。
「何が本物か、どうやって分かるの?」モルが言う。
「彼は本物? 私と同じかも」モルがアリアドネに言う。
コブはモルの正面の席に着いた。 アリアドネは脇に立っている。
「疲れない?」モルがコブに言う。
「企業や警察に追い回されて。 まるで夢に追われてるみたい」
コブは無言で話すモルを見つめる。
「認めたら? ここが現実だって。 そして私と一緒に暮らしましょう」
「俺は家に帰る。 君が子供達を残したままの家へ」コブが言う。
「混乱しているのね。 子供達はここに居るわ」
モルはそう言って、隣の部屋へ行き、子供達に声をかける。
後姿の子供達が立ち上がる。
「やめろ」コブは思わず目をそらす。
「本物じゃない」
「そう思い込んでいるのよ。 あなたは何を信じているの」モルが言う。
「罪悪感だ」コブが絞り出すように言う。
「どんな時も、君への罪悪感が俺を攻め続ける」
「あなたが言ったんじゃない・・・・・・」モルが言う。
「何の話?」アリアドネが眉をひそめる。
「俺が植えつけたんだ・・・・・・。自分の妻に・・・・・・」
「モルが現実に帰るのを拒んだから」
「真実を忘れ、夢の中に現実を封じ込めたモルの心を俺は探し出した」
コブはモルがトーテムを封じ込めた金庫を見つけ、それを開けたときの事を思い出した。
「そして俺は、モルに単純なアイデアを植えつけた」
金庫の中のコマを回し、そしてまた金庫を閉めるコブ。
「そのアイデアが全てを変えた」
「『ここは現実じゃない』『戻るには死ぬしかない』と」
その後、二人は線路に横たわっていた。 揃って死ぬ為だ。
横を向いてお互いを見つめる。
モルを見つめ、祈るように言う。
「列車を待ってる」
「遠くに行く列車を」
「望んでいる場所へは行けるけれど」
「それがどこかは分からない」
コブはモルの後ろから迫ってくる列車を見る。
「でも構わない」
振動が大きくなる。
「二人は一緒だから」
そして列車の衝撃。
「でも、その単純なアイデアが、ガンのように広がるなんて俺は知らなかった」
「現実に戻ってからも、彼女は常にそこが現実とは思うことができなかった」
モルが自分の目の前で飛び降りたときの事を思い出すコブ。
「まだやり直せるわ」モルがコブに言う。
「二人で一緒に・・・。この世界でなら」
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