シーン23:連鎖反応〜キックの敢行〜
第1階層。
ユスフの運転するはしつこく追ってくる襲撃者達にまたまた銃撃されていた。
ユスフは車を橋へと向かわせる。
その橋は、決まった時刻に船を通す為、橋の真ん中部分だけが上に上昇する仕組みを持っている。
ちょうど橋が上がる時間。
橋の手前で、車を止めるためのタイヤ止めが道路からせり上がり始めるのを間一髪で通りすぎるユスフのバン。
追いかけてきた襲撃者の車は、もろにタイヤ止めに衝突し、タイヤが吹っ飛んで走行不能になるが、持ち上げられる橋の上に滑りこむ。
上昇する橋の上には、橋の中央あたりにユスフがバンを止め、その手前にタイヤが取れて止まった敵の車がいる状態だ。
第3階層。
イームスが、警備兵をおびきだすため、上空に照明弾を打ち上げた。
建物内の警備兵達は、雪山の灰色の空に打ち上げられた照明弾を見て、色めき立つ。
警備兵たちは、スノーモービルや、雪山仕様のジープなどに乗って出動する。
第1階層では、上がっていく橋の上で、ユスフのバンが、橋の上で止まった敵の車から銃撃を受けていた。
ユスフは頭を低くして後部座席の皆の状態を確認し、キックの合図の音楽を流し始めた。
第2階層。
ホテルの非常階段を下りていたアーサーは、突然聞こえてきたキックの合図の音楽に、腕時計を確認する。
「早すぎる」アーサーはつぶやき、メンバーが眠る528号室へと走り出す。
音楽は第3階層にも響いていた。
「聞こえるか」無線連絡で聞くコブ。
「20分前から聞こえてる。 どうする?」応答するイームス。
「急げ」とコブ。
「車は音楽を流して10秒後にジャンプする。 上では20分後。 ここでは?」コブがアリアドネを見る。
「60分」アリアドネが答える。
「病院までは?」
「まだ距離があるわ」
「近道はないのか」コブが聞く。
「ここは迷路よ」アリアドネが言う。
「必ず近道があるはずだ」コブがアリアドネに言う。
「追加設計があるけど、それを言ったらモルが・・・・・・」
「いいから言え」コブが言う。
「エアダクトがあるわ。 通れば金庫室の前よ」
「教えてやれ」コブが言う。
「サイトー」アリアドネは無線連絡でサイトーにエアダクトの位置を伝えた。
イームスはスキーで警備兵から逃げていた。
後方から撃ってくる警備兵。 イームスは体を反転させ、バックでスキーをすべるという技を見せ、後方の警備兵をマシンガンで撃つ。
もう一度前方を向いて、今度は直滑降の体勢でスピードを上げ、追っ手を引き離し、針葉樹の森へ滑っていく。
イームスは手に持っていたロープを、投げ縄の要領で針葉樹に引っ掛け、ロープを木と木の間に張って、スキーを止める。
そこへスピードを上げて追ってきた警備兵が突っ込んできて、次々にロープに衝突し、転倒する。
再び第2階層。ホテルのらせん状の非常階段を駆け上がっていると、上から銃撃を受けるアーサー。
階段を駆け下りて逃げる。
追うセキュリティ。
アーサーは手すりを飛び越えて下へと急ぐ。
しかし、気がつけばなぜか逃げているはずのアーサーが追っているはずのセキュリティの後ろに位置していた。
「ペンローズの階段」になっていたのだ。 そしてセキュリティの前の階段は急に途切れていて、目の前は下まで何も無い。
アーサーはセキュリティを突き落とす。
「パラドックスだ」と決めるアーサー。
第1階層。
銃撃に耐えて、音楽を流してからのタイミングを計っていたユスフは、意を決して、ギアをバックに入れて後ろ向きに急発進した。 そのまま橋の防護柵を突き破り、車ごと河へとダイブを敢行する。「キック」である。
第2階層。
非常階段を出て、廊下を駆けるアーサー
突然ホテル内が大きく揺れたかと思うと、自由落下時のような無重力状態に陥ってしまう。
宙に浮かぶアーサー。
第3階層では、雪崩が発生していた。
アリアドネからエアダクトへの指示を聞いたサイトーとロバートは、切り立った崖をロープで降りているところだった。
雪崩は2人のいる方へと向かっている。 それに気が付いた2人は、降りるスピードを上げるが、間に合いそうにないと判断し、ロープを切断して急斜面を転がるように滑り落ちる。
そして、何とか雪崩の影響範囲から抜け出ることに成功する。
「どうせならビーチの夢にしてくれよ」珍しく軽口を叩くロバート。
「何なの?」雪崩を見て言うアリアドネ。
「キックだ」コブが言う。
「失敗ってことか。 どうする?」無線でイームスが聞いてくる。
「次のキックがある」コブが答える。
「次?」
「バンが着水するときの衝撃だ」
「次のキックまで、上が2分。 ここで40分ってところか」コブが言う。
第2階層。ようやく528号室へ戻ってみると、眠っているメンバーもやはり宙に浮いた状態であった。
キック役であるアーサーは思わずつぶやく。
「無重力の中をどうやって落とす?」
第3階層。 エアダクトの入り口の前まで来たロバートとサイトー。
サイトーがロバートのリュックから爆弾を取り出し、エアダクトの入り口となる鉄製の柵に取り付け、身を隠してから爆破。
サイトーとロバートはエアダクトに入り込むが、サイトーが激しく咳き込む。
「大丈夫か?」サイトーを気遣うロバート。
イームスは針葉樹の森に伏せて身を隠していた。
森から出たところには、ジープと数台のスノーモービルに乗った警備兵たちがいる。
「おかしい。 先回りされているぞ」イームスが無線でつぶやく。
やがて兵達は移動を始めた。
最後の1台の2人乗りのスノーモービルが出発すると同時に、イームスは飛び出してモービルを追い、後部座席の警備兵を引きずり下ろして、後部座席に乗りこむ。
振り返った運転手も落としてスノーモービルを乗っ取る。
コブとアリアドネは、監視塔の建物の間近まで接近していた。
慎重に一人ずつ狙撃で警備兵を倒して進んでいくコブ。
第2階層。 無重力の中でキックするための方策を思いついたアーサーは、一旦528号室を出て、泳ぐように通路を移動する。
すると、浮かんでいたカートの陰から、セキュリティの男が襲い掛かってくる。
そのままもつれ合うように格闘へ。
激しい肉弾戦の末、アーサーは空中で敵の背後に回り、相手を絞め落とす。
アーサーは移動をして、爆弾をしかけた528号室の真下の部屋に入る。 そこで仕掛けた爆弾を取り外し、回収した。
第3階層。 コブとアリアドネは、監視塔の下から、周囲および上にいる警備兵を狙撃で倒した上で、監視塔の建物に入っていく。
上への階段を上り、見晴らしの良いフロアへ出て、ライフルのスコープを覗くと、ロバートたちが目指す建物がよく見えた。
金庫室の前で警備をしている兵を狙撃して倒すコブ。
「殺して大丈夫なの?」少し心配になって、コブに聞くアリアドネ。
「ただの影だ。 問題ない」コブは答える。
建物内部へと続く、昇り勾配のエアダクト内を這うように上っていくロバートとサイトー。
サイトーは咳き込むたびに血を吐くような状態だ。
2人はやっとダクトの終点にたどり着く。 金網が貼ってある。
「着いた」ロバートは無線で言う。
ロバートは金網を取り外した。
「これから入る」無線で言うロバート。
その頃、スノーモービルを奪ったイームスは、ジープに追いつき、ジープ上の警備兵に爆弾を放って渡す。
それを受け取った警備兵に親指を立てて、加速して前方に走っていくイームスを乗せたスノーモービル。
警備兵が受け取ったものが爆弾であることに気付いた瞬間、装甲車は爆発炎上する。
第2階層では、再び528号室に戻ったアーサーが、宙に浮くメンバーを紐をつかって一まとめにしていた。
そして、紐を引っ張って廊下へメンバーを出し、そのまま引っ張って進む。
第3階層では、ロバートがエアダクトから這い出し、金庫室の大きな扉の前に立って、それを見ていた。
そのロバートを、ライフルのスコープで見ていたコブは、ロバートの後ろで、天井から降りてくる何者かの足に気づく。
「罠よ!」同じ状況を双眼鏡で見ていたアリアドネが言う。
「もう少しだ」相手の体全体がスコープに収まるまで待つコブ。
コブのライフルの引き金にかかる指に力が入る。
しかし、降りてきた兵士はモルであった。
アリアドネは思わずコブの方を見る。
撃てないコブ。
「彼女は本物じゃない」諭すようにコブに言うアリアドネ。
「なぜ分かる」撃てないコブ。
ロバートの後姿に銃口を向けるモル。
「ロバートは本物なのよ!」アリアドネは叫ぶ。
モルがロバートを撃った。崩れ落ちるロバート。
ハッと正気に戻ったかのようにモルを狙撃するコブ。
「イームス! 金庫室へ行って!」アリアドネが無線で叫んだ。
スノーモービルを駆り、急行するイームス。
彼が金庫室前に駆けつけたとき、ロバートは倒れ、サイトーは壁に寄りかかって瀕死の状態だった。
イームスはとりあえず壁にあったAEDの装置を取り出し、ロバートの脇へ持っていく。
そこへ、コブとアリアドネも駆けつける。
「どうなってる?」イームスが状況を聞く。
「モルのせいよ。 ロバートを撃ったの」アリアドネが言う。
「・・・・・・ロバートは虚無に落ちた。もう終わりだ」唇を噛むコブ。
コブを見るイームス。
「失敗か?」イームス。
「そうだ。 すまない」コブ。
息を吐くイームス。
「俺は家へ帰れるが・・・・・・」
イームスは最終目的である金庫室のドアを見る。
「もう少しだった」無念さを隠しきれないイームス。
「爆破の準備をしよう」コブが気を取り直して言う。
「まだよ」アリアドネが言った。
「まだ何とかなるわ」
そう言うアリアドネを、コブとイームスは見た。
「ロバートは虚無に落ちた。私達もそこへ行くの。そしてロバートを連れ戻す」
アリアドネは早口で自分の考えを言う。
「そんなことをしている時間はもうないだろう」イームスが反論する。
「いいえ、下におりれば時間は伸びる。間に合うわ」アリアドネが言う。
「ロバートはAEDの電気ショックでを蘇生するタイミングで連れ戻す。 後はキックで帰る。」続けるアリアドネ。
「できるか」コブはイームスを見る。
「サイトーが敵の相手をしてくれれば」イームスは言う。
コブとアリアドネはドリームマシンに接続をした。
「間に合わなくても待たないぞ」とイームスは言い、マシンの中央のボタンを押した。
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