シーン3:帰れぬ我が家〜インセプションの依頼〜
場所は東京へと移る。
ホテルの一室。テーブルの上で銀色のコマを回すコブ。その手にはどこに向けるでもなく銃が握られている。
コマの回転はだんだん勢いをなくし、やがて完全に静止した。
コブは息をついて、銃をテーブルに置く。
その時電話がなる。
出てみると、最愛の子供たちからだった。
「パパ!ボクだよ」幼い男の子の声。
「お前達か。元気か!」子供と話せて嬉しそうなコブ。
「たぶん」答える子供。
「『たぶん』はジェームスだな」コブ。
「お父さん、いつ帰ってくるの?」
「まだ帰れないよ、話したろ。仕事が忙しいんだ?」
「もう戻らない、って」女の子の声。
「フィリッパだな。おばあちゃんはどうした?」
「出ないって」フィリッパは言う。
「必ず戻るよ」コブは言う。。
「ママも一緒なの?」男の子。
「ママは・・・、遠くにいるって言っただろ」
そんなやり取りをしていると、受話器の向こうから「さあ、もういいでしょ」という声がした。彼らの祖母のようだ
「こんどプレゼントを贈るよ」
最後まで言う前に電話は唐突に切られてしまった。
コブが受話器を置くと、ノックの音が聞こえた。
アーサーが部屋に訪ねて来たのだ。
「ヘリだ」とアーサー。
コブは手早く荷物をまとめる。
「大丈夫か?」とアーサーが言う。
コブはアーサーを振り返った。
「夢の中にモルがいた」アーサー。
「脚の事は謝る。 もうさせないよ」言いながらモルは部屋を出る。
「ナッシュはどうする?」とアーサーが聞く
「コボル社との約束まであと2時間しかない。 失敗はバレてる。 消えるぞ」とコブ。
ホテルの階段を上がって屋上へ向かうコブとアーサー。
「ヘリで空港まで行って、分かれよう」とコブ。
「どこに行くんだ?」アーサーが聞く。
「ブエノスアイレス。お前は?」とコブ。
「アメリカ」アーサーが答える。
話しながら減りに近づくと、ヘリのドアが開く。
ヘリの中にはサイトーが乗っていた。凍りつくコブとアーサー。
「どうしてここが・・・」戸惑うコブ。
「彼に聞いた。 寝返ったのだ。 見逃してくれと」サイトーの視線の先には、怯えきったナッシュが座っていた。
「好きにしたらいい」サイトーがそう言うと、サイトーの手下がピストルをコブに差し出す。
裏切り者に制裁を与えるなら好きにしろ。サイトーはそう言っているらしい。
コブは複雑な表情でそれを見つめるが、「俺の仕事じゃない」といって銃を受け取らない。
「そうか」サイトーは言って、反対側のドアの窓をノックする。
そのドアが開き、屈強な男2人が現れ、ナッシュをヘリから引きずり出す。
「乗れ」サイトーはコブとアーサーをヘリに招き入れる。
飛び立つヘリ。
小さくなるヘリポートにビルの端の非常階段の方へ引きずられていくナッシュの姿も小さくなる。
「ヤツをどうするつもりだ?」ナッシュの方を見ながら言うコブ。
「どうもしないがコボル社はどうかな?」サイトー。
コブは座席に座り直しため息をつく。
「何が望みだ?」切り出すコブ。
「インセプションだ。 できるだろう?」とサイトー。
「無理だ」アーサーが即答する。
「抜き取りができるんだ。 植え付けだってできるはずだ」サイトーが言う。
「ゾウのことを考えるな。そう言われると何を考える?」アーサーがサイトーに問う。
サイトーは一瞬考えて「ゾウのことかな?」と答える。
「そう、しかしそれは他人の考えだ」とアーサー。
更にアーサーは続ける。
「人は常に思考の元を探す。ごまかせない」
「違う」コブがつぶやく。
アーサーの驚いた顔。
「できるんだな」迫るサイトー。
「脅迫か?」とコブ。
コブは続ける「コボル社のことは自分たちで何とかする」
「そうか、では好きにするがいい」とサイトー。
飛行場に着陸し、ヘリから降りるコブとアーサー。それをヘリの中から見送るサイトー。
「ヘイ、Mr.コブ」サイトーが呼び止めた。
「帰りたくないのか。 子供の待つアメリカの家へ」とサイトー。
「それだけは誰にもできないことだ」コブは言う。
「インセプションもか?」サイトー。
コブは立ち止まって考える。 そして再度ヘリに歩み寄った。
「何を植え付ける?」コブは聞く。
「簡単な内容だ」サイトー。
「インセプションに簡単なものなどない」コブは言う。
「ライバル企業の会長は高齢で病気だ。 もうすぐ次期会長を息子が継ぐ。 その息子に引き継いだ帝国を潰すように仕向けたい」とサイトー。
アーサーは「よせ、もう行こう」と促すが、コブは「黙れ」と一蹴する。
考えるコブ。
「仕事が終わったら必ず帰れるという保証が欲しい」と切り出すコブ。
「無理だ」きっぱりと言い切るサイトー。
「だが帰す」コブをしっかりと見つめるサイトー。
「信じて飛び込むしかないんだ。それとも後悔を抱えたまま老いぼれていき、孤独に死を待つのか?」
サイトーの言葉にコブは腹を決めて頷く。
「まずはメンバーを集めろ。人選は慎重にな」
多少の皮肉をはらんでサイトーを乗せたヘリは飛び立つ。
パリへ向かう機内。
食事をしながら話し合うコブとアーサー。
「気持ちは分かるが、できるはずがない」アーサーが言う。
「いいや、深く潜れば可能だ」コブが言う。
「無理だ」アーサーはあくまで否定的だ。
「前にやったことがある」コブが答える。
「誰に?」当然の疑問を投げるアーサーだが、コブは答えない。
アーサーは肩をすくめ、違う質問をする「なぜパリへ?」
「設計士を探す」
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