シーン02:エクストラクション〜夢の中の夢〜
大きな城のような屋敷の広い部屋で、食事をするサイトーに、コブが熱弁を奮っている。
「最強の寄生物とはなにか? バクテリア? ウイルス? それとも回虫?」熱く語るコブ。
「つまり、コブ氏は・・・」と、それを補佐するアーサー。
「それは『アイデア』です」コブが語る。
サイトーは余裕の表情で食事をしながら2人の営業トークのような話を聞いている。
「アイデアは頭に入り込むと、取り除くことは難しい。感染力も強く、1度感染すると次々に広がっていき、脳に突き刺さる」コブは続ける。
コブが言うには、夢を見ているときは情報を守るという防御力が低下することを利用して、夢に入り込んでアイデアを潜在意識から「エクストラクション(抜き取り)」することができるという。
事実、自分達もエクストラクションのプロだと。
しかし、鍛えれば潜在意識は守れる。睡眠中も大切な情報をガードすることは可能である。
そのためにはサイトーの事をもっと良く知る必要がある。
情報を守りたければ、自分を受け入れろ。
と、サイトーに潜在意識のディフェンスを自分達から学ぶよう勧めている。
「金庫の場所はどこです?私が守ります」
熱く語るコブをよそに、食事が済んで席を立つサイトー。
「いい夜を」サイトーは言い「検討するよ」と申し訳程度に付け加えた。
サイトーが襖の向こうに姿を消したのを観て、アーサーは一言「バレてる・・・・・・」とつぶやく。
その時、ズーンと低い地響きで天井が揺れる。
コブとアーサーは、それを見て「上だな・・・」とつぶやく。
場面は変わって、ナッシュがアパートの一室のような部屋の窓から覗くと、暴動の火の手が近づいて来ていた。
時折、建物が爆発する様子が見え、暴徒たちもこちらへ段々迫ってきている。
ナッシュは、緊張した面持ちで時計を見て、落ち着かない様子で、イスで眠っているアーサーとコブ、隣室のベッドで眠っているサイトーの様子を見る。
3人ともまだぐっすり眠っている。
また外で何かが爆発した。
場面はコブとアーサーに戻る。
地上数階、巨大な屋敷の外回廊を、夜空を背景に歩く2人。
ナッシュがいる世界の爆発に同調するように屋敷が揺れる。
「遊ばれてるぞ」と言うアーサー。
「絶対に抜き取って見せる。金庫の話をしたときの視線で、場所は分かった。やれるさ」
話しながら歩いていると、回廊の手すりに持たれて佇んでいるモルがいた。
「おい、彼女がいるぜ」アーサーがコブにいうと「部屋に戻ってろ」とコブ。
「仕事を忘れるなよ」といいながら一人で部屋に帰っていくアーサー。
コブがモルに寄って行くと、モルはコブの顔も見ずに「ここから飛んだら死ぬ?」と聞く。
「落ち方にもよる」コブは答えた。
「なぜここに?」逆にコブが聞いた。
「私に会いたかったでしょ?」モルが言う。
「・・・・・・、君を信じられない」コブ。
コブはモルを自分の部屋に連れて行く。
「子供たちは寂しがってる?」イスに座ってコブに尋ねるモル。
「当然じゃないか」
コブは応えながら長いロープをモルの座っているイスに結びつける作業に余念がない。
「どこに行くの?」ロープで窓から降りようとするコブにモルは言った。
「外の空気を吸いに。君はここに居ろ」
そう言ってロープを手に、窓から出てするすると降りていくコブ。
目的の窓の前で止まると、突然ロープの張りがなくなり、落下するコブ。モルが居なくなり、ロープを結びつけたイスが窓際の壁まで動いたせいだ。
幸い、イスは壁で止まったので、コブは最後まで落下せずに済んだ。
しかし、目的の窓より下までずり落ちたので、ロープをよじ登り、目当ての窓を専用のガラスカッターで丸く切り取って鍵をあけ、再び建物内部に侵入するコブ。
建物内の通路を素早く移動するコブ。
途中に見張りが何人もいるが、手際よく次々と射殺してひた走る。
目的の部屋につくと、思ったとおり金庫が隠してあった。
コブは難なく金庫をあけ、中にあった封筒を取り出し、代わりの封筒を入れておこうとした、その瞬間!
「そこまでだ!」部屋に明かりがともり、向かいの襖が開けられた。
そこにはサイトーと、不敵に微笑むモルが立っていた。
そして襖の陰から、黒服の男に羽交い絞めにされたアーサーも。
コブは構えかけた銃を、テーブルに置いてすべらせ、抵抗しない意を表した。
「モルに聞いたのか?」悔しげに言うコブ。
「それは、盗みについてかね? それともこれが夢だということか?」
せせら笑うサイトー。愕然とするコブとアーサー。
「封筒を返してもらおうか」サイトーが言う。
コブは仕方なく、封筒をテーブルに置く。
「誰に雇われた!」サイトーの怒声。
答えのないコブを見て、モルはアーサーの額に銃口を向ける。
「・・・脅しなど、夢の中では無意味だ」コブが強気に出ると、モルは微笑み「そうね、夢の中で死んでも目が覚めるだけですものね。でも・・・」
銃をアーサーの脛に向け撃ち抜く。
絶叫し、身をよじるアーサー。
「痛みは感じる」涼しい顔で言うモルは、「やっぱりアーサーの夢だったのね」と言いながらアーサーの反対側の脚も狙う。
コブはモルの一瞬の隙をついて、テーブルに置いていた自分の銃に飛びつき、アーサーの額を一発で撃ち抜く。
その瞬間、ナッシュが待機している部屋で覚醒するアーサー。
突然のアーサーの覚醒に驚くナッシュ。
「どうした!?」
「まずいことになった」アーサーは腕に刺してある機械の管を抜き、サイトーの寝ているベッドに歩いていく。
「眠りを引き伸ばさないと」と言いながらサイトーが接続する機械をいじる。
夢の所有者、アーサーが覚醒した為、コブやサイトーのいる世界は急速に崩壊し始める。
コブは建物の崩壊にまぎれて逃げ出す。
「危なかったわね」モルはサイトーに言う。
サイトーは、コブが金庫から取り出した封筒を既に押さえているので、余裕を見せ、中身を確認する。
しかし、中身は空白の紙が入っているだけ。本物はコブが持って逃げたのだ。
「捕まえろ!」怒りに声を荒げるサイトー。
コブは激しい銃撃を何とか回避しながら逃げ回る。逃げながら封筒の中身を確認。
しかし、その書類には肝心な情報が抜けていた。
つまり、金庫から情報が抜き取られることは、相手サイドに事前に想定されていたのだ。
「コブを起こせ!」サイトーより先にコブを覚醒させなければならないアーサーは、サイトーを接続した機械を操作しながらナッシュに指示を出した。
ナッシュが揺さぶっても、頬を叩いても起きないコブ。
夢の中の崩壊が激しくなってきた。 モルは必死で逃げる。
そのとき、コブを追ってきたサイトーの上に崩壊した建物が落ちてきて、彼は圧死する。
「だめだ!起きない!」ナッシュが叫ぶ。
「キックだ。落とせ!」眠っているサイトーの足元で作業をしながら指示を出すアーサー。
ナッシュはコブがかけて眠っているイスの後ろは、水をはったバスタブになっていることに気づいた。
ナッシュはコブを突き飛ばした。
コブはイスごと後ろ向きにひっくり返って、バスタブの水の中に水没する。
その瞬間、夢の中のコブが立っている場所の上の方の窓から、大量の水がなだれ込んでくる。
アーサーが顔を上げると、死によって夢から覚醒したサイトーがベッドからゆっくりと上体を起こし、銃口を向けていた。
サイトーはアーサーに銃を突きつけたまま、コブとナッシュのいる部屋に移動。
ナッシュはキックで水に落ちたコブに気を向けていて、サイトーに気付かず、簡単に後ろから絞め上げられた。
サイトーは片手をナッシュの首に回して締め付け、もう片方の手で持った銃をアーサーの方へ向けた。
しかし後ろから、バスタブの中で覚醒したコブがサイトーを突き飛ばし、ナッシュも肘でサイトーを突き飛ばし、その拘束から逃れて状況は逆転する。
3人に取り囲まれるサイトー。
外では暴動がますます近づいているようだ。
「警備にも教えてないこの部屋がなぜ分かった」サイトーが言う。
「愛の巣は隠せないさ。人妻が喋ったんだ」コブが言う。
「嘘だな」サイトー。
「喋ったよ」コブ。
「我々がエクストラクションしてくる事を予期してたな? 目的はなんだ」コブが聞く。
「君を試したのだ」悪びれずに答えるサイトー。
「試す? 何をだ?」コブ。
「君は失格だな」不敵に言うサイトー。
「ちゃんと金庫から情報は抜き取った」コブ。
「見え透いていた」サイトー。
そのようなやり取りをしているとき、所は変わって、日本の新幹線のなかで時計を気にする若い日本人の男。
彼が心配そうに見ているボックス席には、コブとアーサー、ナッシュ、そしてサイトーが座っていて4人とも眠っている、なにやらトランクを開いたような機械から伸びる管が彼らの腕へ点滴のようにつながっている。
若い男は時間が来たのを確認し、ナッシュにヘッドホンをつけ、音楽を流す。
夢の中で音楽を感じるナッシュ。音楽はもうすぐ覚醒する、というタイミングの知らせだ。
「時間がない」ナッシュが言う。
「いいか、今度の雇い主は失敗を絶対に許さない。俺達は消される!」コブはサイトーに言う。
「全部話せ!包み隠さず全部だ!情報はどこだ!」サイトーに詰め寄るコブ。
サイトーは意に介せぬ顔。アーサーが外を見ると暴徒は自分たちの建物の前まで押し寄せている。
コブは「シンプルに行くか」と言い、サイトーを突き倒し、銃口を向け、情報はどこだ!と叫ぶ。
床に体が投げ出されたサイトーは床に敷いてある絨毯の異変に気づく。
「この絨毯が嫌いだった」つぶやきながら起き上がるサイトー。
意味が分からないコブたち。
「シミだらけで、擦り切れている・・・。しかしウール製だった。・・・・・・これはポリエステル製!」
言うサイトー。顔を見合わせるコブとアーサー。
「つまり、ここは私の部屋ではない!!これも夢か!」
満足げに言うサイトー。
カラクリがばれて顔をしかめるコブたち。
夢とバレては銃での脅しにあまり効果はない。
「夢の中の夢か!評判どおりの腕前だ!」むしろ嬉しそうに言うサイトー。
「しかし、これは私の夢だ。 私に従え。 さあ出て行け」そういったサイトーに、ナッシュが「違う」と言う。
「俺の夢だ」ナッシュが言った瞬間、彼の背後のドアが荒々しく開き、暴徒が押し寄せてくる。
その時、新幹線内の彼らが接続したマシンのタイマーが、ナッシュ、アーサー、コブの順にタイムアウトし、彼らは現実世界で覚醒する。
サイトーはまだ眠っている。
「絨毯で大失敗だ」アーサーががナッシュを見て言う。
「想定外だ」と弁明するナッシュ。
「お前の設計だ! 調査不足だ」コブがナッシュをなじる。
情報の抜き取りに失敗した彼らは、手早く機械を片付ける。
「コブも変だったぞ」とアーサーが言う。
「冷静だった」コブは言う。
「あれでか?」アーサーが嫌味を言う。
「悪いが俺は京都で降りる」とコブ。
ナッシュは「車内の方が安全だぜ」というが、「電車は苦手なんだ。残るのは勝手だが、後は自己責任だぞ」と言いながらコブは若い男に報酬らしきカネを渡し、席を立つ。アーサーはコブに続く。
しばらくしてサイトーが目覚める。
サイトーは自分の手首に、機械への接続の跡があることを確認して、周囲を見渡す。
近くの席で、コブ達の手伝いをした若い男がマンガ雑誌を読んでいた。サイトーと一瞬目が合った。
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